けて置いて、その中にラジウムを嵌《は》めこむ方法も考えたが、ラジウムの偉力《いりょく》は、洋服の生地《きじ》も馬蹄《ばてい》で作った釦も、これをボロボロにすることは、まったく同じことだった。――結局、柿色の制服を着る際には、どうしてもラジウムを、あの肉ポケットに入れて、うまく独房《どくぼう》の中へ持ち込むより外に、いい手はなかった。
こんな風で、私の肉ポケットの疾患《しっかん》は、更に悪化したのだった。ラジウムも適当なる時間を限って患部に当てれば、吃驚《びっくり》するほど治癒《ちゆ》が早いが、度を過ごすと飛んだことになるのだった。
「おい一九九四号、出てこい」
「はア。――」
「医務室へ連れてゆくから出て来い」
「はア。――」
私はラジウムを、清掃用《せいそうよう》の箒《ほうき》のモジャモジャした中に隠してそれから看守に連れられて外に出た。
(おオ、おオ)
と向いの一二二二号が小窓から顔を出して、私にサインを送った。彼はこの刑務所へ入って出来た最初の友達であり先輩だった。本名《ほんみょう》は五十嵐庄吉《いがらししょうきち》といい、罪状《ざいじょう》は掏摸《すり》だとのことだった。
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