》えがあった。やがてズルズルと出て来たのは小銃の弾丸のような細長い容器に入ったラジウムだった。私はそれを白紙《はくし》の上に取って、ニヤリとほほえんだ。
「叩き売っても、まず……三万両は確かだろう」
私は白紙をクルクルと丸めると、着物の袂《たもと》に無造作に投げこんだ。そして嬉しさにワクワクする胸を圧《おさ》えて、表玄関の人込《ひとご》みの中を首尾よく脱出したのだった。
こうして私の永く研究していたスポーツは、筋書どおりにうまく運んだのだった。これで私も、末の見込みのない平事務員の足を洗って、末は田舎へ引込むなりして悠々自適《ゆうゆうじてき》の生活ができるというものと、悦《よろこ》びに慄《ふる》えた。
「ではお前は、あのラジウムを直ぐ処分したのかネ」と訊《き》かれるであろう。
直ぐ処分するということは、凡《およ》そ泥棒と名のつく人間の誰でもやるであろうところの平々凡々の手だ。そして同時に拙劣《せつれつ》な手でもある。――私はそんな手は採用しなかった。
そこで私の第二段の計画にうつった。それは、大変|突飛《とっぴ》な計画だった。私はその足ですぐに日本橋の某百貨店へ行った。そこの貴
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