はそっちの方をひき※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》ってみた。が、やっぱり無い。そんな筈はない。そんな筈はない。が、どうしても見当らないのだった。
「ああーッ」
私の腰はヘナヘナと床の上に崩れてしまった。夢ならば醒《さ》めよと思った。神様、もう冗談はよしましょうと叫んだ。時間よ、紙風船を破く前に帰れよと喚《わめ》きたてた。だが、そんなことが何の役に立つというのだ。絶望、絶望、大絶望だった。数万の毛穴から、身体中のエネルギーが水蒸気のように放散《ほうさん》してしまった。私は脱ぎ捨てられた着物のようになって、いつまでも床の上に倒《たお》れていた。
それはどれほど後だったかしらぬ。私はようやく気がついて、床の上に起き直った。
考えてみると、随分馬鹿な話だった。あれほどうまく隠しおおせた三万五千円のラジウムが、とうとう行方不明になってしまったのだ。だが、あの日までは私の手のうちにあったラジウムである。現在も地球上の、どっかに存在している筈《はず》であった。
そう思うと又|口惜《くや》し泪《なみだ》がポロポロ流れ落ちて来るのだった。人生の名誉を賭けたあのラジウムを、
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