。宿泊料とチップを受けとって、ふくら雀《すずめ》のようなお手伝いさんが出てゆくと、私は外套《がいとう》を脱ぎ、上衣《うわぎ》を脱いだ。そして持ってきた包みをベリベリと剥がした。ナイフなんか使う遑《いとま》がない。すべて爪の先で破った。
出て来た出て来た。
「柿色の紙風船だァ!」
外《ほか》の紙風船は、室内にカーニヴァルの花吹雪《はなふぶき》のように散った。
「これだ、これだッ」
とうとう探しあてた柿色の紙風船だった。私の眼は感きわまって、俄《にわ》かに曇った。その泪《なみだ》を襯衣《シャツ》の袖で横なぐりにこすりながら、私は紙風船の丸い尻あてのところを指先で探った。
「オヤ?」
どうしたのだろう。尻あて[#「あて」に傍点]のところに確かに手に触れなければならない硬いものが、どうしても触れないのだ。そこはスケートリンクのように平坦だった。
「そんな筈はない!」
怺《こら》えきれなくなった私は、尻あてに指先をかけると、ベリベリと引っぺがした。すっかり裏をかえして調べてみた。ところが、やっぱり何も見当らない。これは尻あてと、呼吸《いき》を吹きこむ口紙の方と間違ったかナと思って、今度
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