目で、柿色の紙風船が重《かさ》なっているところを見付けた。
「あ、こいつはお誂《あつら》え向《む》きだ。こいつを買いましょう。」
私は十円|紙幣《さつ》を抛《ほう》り出して、沢山の風船を買った。小僧さんが包んでくれる間も、誰かが邪魔《じゃま》にやって来ないかと、気が気じゃなかった。だがそれは杞憂《きゆう》にすぎなかった。
私は風船の入った包みをぶら下げて、店を出た。ところが店の前を五六間行くか行かないところで、私はギョッとした。私の顔見知りの男が、向うから歩いて来るのである。それは帆村という探偵に違いなかった。
(これは――)と咄嗟《とっさ》に私は決心を固めたが、幸いにも帆村探偵は、並び並んだ玩具問屋《おもちゃどんや》の看板にばかり気をとられて歩いているらしかった。私はスルリと電柱の蔭に隠れて、とうとうこの間抜け探偵をやりすごした。
私はすぐに円タクを雇うと、両国《りょうごく》へ走らせた。国技館前で降りて、横丁を入ってゆくと、幸楽館《こうらくかん》という円宿《えんしゅく》ホテルがあった。私はそこの扉《ドア》を押した。
三階へ上り、部屋からお手伝いさんを追い出すのももどかしかった
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