ていった。
(柿色の風船は?)
 無い、無い。無いことはないのだが……。およそ私の居た刑務所の紙風船は、一つのこらずこの丸福商店に買われることになっているのだ。それは刑務所で入札《にゅうさつ》の結果、本年も紙風船は丸福に落ちていたのだった。だから柿色の紙風船は、この店にあるより外に、行く先がなかった。売れたのかしら?
「……もう風船はないのですか」
「唯今《ただいま》、これだけで……」
「そうですか。どこかにしまってあるんじゃないですか」
「いいえ」
 小僧さんは悲しいことを云った。
 私はガッカリして、立ち上る元気もなかった。そのとき奥から番頭らしいのが、声をかけた。
「吉松。さっき、あすこから来たのがあるじゃないか。あれを御覧に入れなさい」
「ああ、そうでしたネ。……少々お待ち下さい。今日入った分がございましたから」
「今日入ったのですか。ああ、そうですか」
 私は悦《よろこ》びに飴《あめ》のように崩《くず》れてくる顔の形を、どうすることも出来なかった。小僧さんは、大きいハトロン紙《し》の包みをベリベリと剥《む》いた。
「これは如何《いかが》さまで……」
「ああ――。」
 私は一と
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