ちけんちょう》の玩具問屋《おもちゃどんや》、丸福商店《まるふくしょうてん》だった。あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、相当まごついたが、やっと思う店を探しあてた。店頭には賑《にぎや》かに凧《たこ》や羽根《はね》がぶら下り、セルロイドのラッパだの、サーベルだの、紙で拵《こしら》えた鉄兜《てつかぶと》だの、それからそれへと、さまざまなものが所も狭く、天井から下っていた。――私は臆面《おくめん》もなく、店先へ腰を下した。
「いらっしゃいまし。何、あげます?」
 と小僧さんが尋《たず》ねた。
「ああ、紙風船が欲しいのですがネ、すこし注文があるので、一ついろいろ見せて下さい」
「よろしゅうございます。――紙風船といいますと、こんなところで……」
 と小僧さんは指さした。なんのことだ、私の坐った膝の前、あの懐しい紙風船が山と積まれているのだ。
(おお。――)
 私の胸は早鐘のように鳴りだした。風船を両手でかき集め、しっかり圧《おさ》えたい衝動に駆られた。だが私も、刑務所生活をして、いやにキョトキョトして来たものである。
「そうですネ。――」
 と私は無理に気を落ち着けて、風船の山を上から下へと調べ
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