そんなに簡単に失ってなるものかと歯ぎしり噛んだ。
「一体どこで失ったんだろう?」
 私はあの日からのちのことをいろいろと思い綴《つづ》って見た。いろいろと考えられはしたが、結局しっかりしたことは判らない。しかし一旦|糊《のり》で紙の間に入れたラジウムが、こんな短期に脱け落ちるのはおかしい。といって風船が違ったわけでもない。この柿色の風船のように、半端な色花びらを接《つ》ぎ合《あ》わせたものは外《ほか》にない筈だ。
 私は同じことを、いくたびも繰り返し繰り返し考え直した。考え直しているうちに、ふと気がついたことがあった!
「おお、あれかも知れない」
 私はムクリと起き上った。
「いや、あれに違いないぞ。うん、そうだ」
 私の全身には、俄《にわ》かに血潮の流れが早くなった。手足がビリビリと慄《ふる》えてきた。
「よォし、畜生……」
 私は戸外《こがい》の暗闇に走り出《い》でた。

 さてそれから後のことを、どう皆さんに伝えたらいいだろうか。私はすこし語りつかれたので、結末を簡単に述べようと思う。その結末というのは、恐らく、もう皆さんの目にハッキリと映っていることと思う。そういって判らなけれ
前へ 次へ
全33ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング