ラジウムは遂《つい》に怪《あや》しまれることもなく、私の独房の箒《ほうき》の中に、五年の歳月を送ったのだった。私に新たな希望の光がだんだんと明るく燃えだした。私は暮夜《ぼや》、あの鉛筆の芯《しん》ほどのラジウムを掌《てのひら》の上に転がしては、紅い灯のつく裏街の風景などを胸に描いていた。
ところが出獄《しゅつごく》も、もうあと三週間に迫ったという一月二十五日のこと、私の独房に、思いがけない二人の来訪者があった。
「オイ、一九九四号、起きてるか。――」
看守の後から背広姿の二人の訪客が入って来た。私は保釈《ほしゃく》出獄の使者だろうと直感した。
(オヤ)私は心の中で訝《いぶか》った。二人の客のうちの一人は、見知り越しの医務長だった。もう一人は、日焼けのした背の高いスポーツマンのような男だった。
「この男ですよ。入ったときは、実にひどい痔でしてナ、ところが私の例の治療法で、予期しないほど早く癒《なお》ってしまいました」
「はア、はア」
「どうか何なとお話下さい。あとでこの男の患部を御覧に入れましょう」
「いや、それには及びません。ただ、すこし話をして見たいです」
「それはどうぞ御自由に
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