ラートに糊《のり》をつけたものを持っていて、その風船の肛門《こうもん》のようなところへ円い色紙をペタリと貼りつける。すると間髪《かんぱつ》を入れず、五十嵐の方が風船をフットボールから外《はず》すと、素早くお椀みたいなのを裏返しにして、もう一度フットボールの上に載せる、すると反対の側の風船の肛門が出てくるから、私は小さい穴のあいている方のオブラートをペタリと貼るのである。それで紙風船の作業は終った。
 あとは五十嵐が、出来上った紙風船を、お椀《わん》を積むように、ドンドン積み重ねてゆく。すると、ときどき検査係が廻って来て、その風船の山を向うへ搬《はこ》んでいってしまう。
 私と五十嵐とは、うまく呼吸《いき》を合《あ》わせて、
「はッ、――」ポン。
「いやア。――」ポン。
 と、まるで鼓《つづみ》を打っているように、紙風船の肛門を貼ってゆくのであった。――だがこんな仕事は、せいぜい一と月もやれば、いやになるものだった。
 しかし月日の経つのは早いもので、そのうちに刑務所のお正月を、とうとう五度、迎えてしまった。やがて二月が来れば、いよいよ娑婆《しゃば》の人になれることとなった。その後、あの
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