……」
その見馴《みな》れぬ紳士は、私の痔病について、いろいろと質問を発した。私はそれについて淀《よど》みなく返事をすることに勉《つと》めた。しかしあの病院のことだけは言わなかった。
紳士は大した質問もせずに、医務長と共に引上げていった。
そのあとで私はガッカリして、便器の上に蓋をして作ってある椅子の上に腰を下した。
(どうも変だナ)
紳士は一見医師としか見えぬ質問をしていったが、どうも医師くさいところに欠けているような気がした。疵《きず》を持つ脛《すね》には、それがピーンと響いたのだった。
(探偵《でか》かしら……)
にわかの不安に私の胸は戦《おのの》きはじめた。
(これァいかん)
私は真先に、ラジウムの処分問題を考えた。この調子では、私の肉ポケットに入れて出ることは、明かに危険であると感じた。きっと出獄の前に、いまの二人が私の肉ポケットを点検するだろう。そのときこそ百年目に違いない。――私は至急に別なラジウムの隠し場所を考え出さねばならなかった。
「オイ丸田」と作業場で声をかけたのは五十嵐だった。
「昨夜《ゆうべ》は大したお客さまだったナ」
「うん」
「あの若い方を知っ
前へ
次へ
全33ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング