《よろこ》んでいた。しかし何から何まで単調な所内の生活に、遂《つい》に愛想《あいそう》をつかしてしまった。
尤《もっと》も、私達は手を束《つか》ねて遊んでいるわけではない。私達の一団は、紙風船《かみふうせん》を貼《は》っているのである。広い土間《どま》の上に、薄い板が張ってあって、その一隅《いちぐう》に、この風船作業が四組固まって毎日のように、風船を貼っているのだった。それは刑務所の中での一番|華《はなや》かな手仕事だった。赤と青と黄、それから紫に桃色に水色に緑というような強烈な色彩の蝋紙《ろうがみ》が、あたりに散ばっていた。何のことはない、陽春《ようしゅん》四月頃の花壇《かだん》の中に坐ったような光景だった。向うの隅で、麻《あさ》の糸つなぎをやっている囚人たちは、絶えず視線をチラリチラリと紙風船の作業場へ送って、快《こころよ》い昂奮《こうふん》を貪《むさぼ》るのであった。
風船をつくるには、色とりどりの蝋紙の全紙《ぜんし》を、まずそれぞれの大きさに随《したが》って、長い花びらのように切り、それを積み重ねておく。それから小さいオブラートのような円形《えんけい》を切り抜いて積み重ねる
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