んで、舗道の上へおどりあがった。きょろきょろ四周《あたり》を見まわしたが、防空壕《ぼうくうごう》らしいものはなかった。
「どうしよう?」
 彼は途方《とほう》に暮れて、なおもうろうろしていた。するとそこへ走ってきた一台のトラックが、傍《わき》へぴたりと停った。
「早く乗れ」
 トラックの上から、手が出ると、やっという懸《か》けごえと共に、彼は車上《しゃじょう》に引き揚げられた。


     3


 トラックの上には、いろいろな種類の人間が乗っていた。いずれも皆、そのあたりを歩いていた町の人々らしかった。
 トラックは、それから暫《しばら》く走ったが、やがて「防空壕アリ」と建札《たてふだ》のあるビルディングのところまで来ると、ぴたりと停った。
「さあ、防空壕へはいった。しずかに、そして早く……」
 指導員らしいのが叫んだ。
 仏天青《フォー・テンチン》も、人々のうしろから、柵の中にはいった。狭い下《くだ》り坂《ざか》を、ついていくと、やがて、電灯のついただだっ広《ぴろ》い部屋が見えた。ぷーんと饐《す》えくさい空気が、彼の鼻をうった。
 彼の頭は、急に、ずきんずきんと痛みだした。よほど
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