は、きっと、遠い広東《カントン》省かどこかにあるのであろう)
中国と思えば、ふと「広東省」という地名が、頭脳の中から飛び出してきた。だが、それ以上に発展しなかった。
(この土地は、たしかにイギリスにちがいないが、自分は何用《なによう》あってこんなところへ来たのであろう)
赤十字のマークをつけた病院の自動車が三台、町の方からやってきて、彼の傍を通り過ぎていった。
(おれは一体、幾歳《いくさい》ぐらいの男なんだろう)
彼は、ふと立《た》ち停《どま》って、あたりを見まわした。目についたのは、畦道《あぜみち》の傍《そば》を流れる小川だった。
彼は、そこまで歩いていって、恐《おそ》る恐る、しずかな流れに顔をうつした。
「や、おれは、頭に怪我《けが》をしていたんだ。そうそう二三日前に気がついたんだが。何の怪我かしらん。おう、あ痛《いた》ッ」
彼は、痛々しい自分の頭の包帯《ほうたい》にびっくりしてしまって、とうとう自分の顔から自分の若さを読みとる余裕《よゆう》がなかった。
そのところへ、サイレンが、けたたましく鳴り出した。
「あ、空襲警報《くうしゅうけいほう》だ!」
彼は、畦道をすっと
前へ
次へ
全83ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング