るという事を忘れていてくださいまし」
「なに。なぜ、そんな……」
「さあ、それなのよ。なにも聞かないで、明朝まで……。お約束してくださる?」
アンは、仏の傍《そば》へすりよって、彼の明快な返事を求めた。
「お前がそれを欲《ほっ》するなら……」
仏は苦しそうに、応《こた》えた。
「だが……」
「だが?」
「また、おれを……ここへ残して、逃げていくのではあるまいね」
「いいえ、明朝、きっとお目に掛《かか》るわ。約束を聞いてくだすってありがとう。それまで、どんなことがあっても、どんなものを見ても、あたしに何も訊《き》かないでね、きっと明朝まで、あたしというものを忘れていてくださるのよ。ああ、うれしい。あなたは、きっとこの秘密を守ってくださるでしょうね」
「うむ、男らしく、おれは約束を守ろう。しかしアン。その前に、ただ一言、教えてくれ。お前は、本当に、おれの妻か」
「明朝まで、お待ちになって!」
「じゃあ、おれは、本当に仏天青か」
「それも明朝までお待ちになって。男らしくお待ちになるものよ」
「……」
仏は、拳を握って、自分の胸を、とんとんと叩いた。
16
アンは、マ
前へ
次へ
全83ページ中71ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング