ハンバー湾のものものしい光景に、異常な興味を覚えた。
 河口《かこう》には、たしかに防潜網《ぼうせんもう》を吊っているらしい浮標《ブイ》が、夥《おびただ》しく浮び、河口を出ていく数隻《すうせき》の商船群《しょうせんぐん》の前には、赤い旗をたてた水先案内《みずさきあんない》らしい船が見えるが、これは機雷原《きらいげん》を避《さ》けていくためであろう。またはるかに港外には駆逐艦隊《くちくかんたい》が活発《かっぱつ》に走っていた。
(ドイツ軍の上陸作戦を、極度《きょくど》に恐れているのだな)
 仏《フォー》は、河口の異風景《いふうけい》に気を取られているうちに、馬車は、いつの間にか、小さい山を一つ登って、鑑識研究所の前についた。
 仏は、門衛《もんえい》に、刺《し》を通じた。
 門衛は、紹介状の表を見て、本館へ電話をかけた。
「所長は、生憎《あいにく》出張中ですが、今夜あたり、ここへお戻りです。副長《ふくちょう》からのお話ですが、明朝《みょうちょう》、もう一度、御出で願うか、それとも御急ぎなら、所に附属している宿泊所《しゅくはくじょ》で、お待ちになってはということでございますが、どっちになさ
前へ 次へ
全83ページ中68ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング