駅に下りて、仏天青《フォー・テンチン》はおどろいた。こんなものものしい警戒は、はじめて見た。
“中国大使館参事官仏天青氏を御紹介す。アーガス博士殿”
というドクター・ヒルの紹介状が、とんだところで効《き》き目をあらわして、仏は、無事に駅の階段を、町へ降りることが出来た。
「アーガス博士の鑑識《かんしき》研究所へやってくれないかね」
駅の前に待っているタクシーの運転手に話しかけると、黙って、隣りを指した。
タクシーの隣りには、馬車があった。老人の馭者《ぎょしゃ》が、この喧噪《けんそう》の中に、こっくりこっくり居眠りをしていた。馬車とは愕《おどろ》いたが、
「アーガス博士の鑑識研究所へいってくれるかね」
と、仏が大きい声で怒鳴《どな》ると、馭者の老人は、やっと目を覚ました。そして二三度、丁寧に聞き返した後で、さあ乗って下さいといった。
馬車は、雑閙《ざっとう》する町を後にして、山道にかかった。
「爺さん、鑑識研究所だよ」
「わかっていますよ。鑑識研究所は、この山のうえだ。あと三十分かかるよ」
「なあんだ、山の上に在《あ》るのか」
馬車にゆられていくほどに、仏天青は、眼下に開ける
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