だ。
ところが、そのとき彼は、また大発見をしたのだ。タキシードのポケットに手を入れてみると、何か硬い表紙をもった帳面のようなものが手に触《ふ》れたのである。なんだろうと、引張《ひっぱ》り出してみて愕《おどろ》いた。それは、銀行の預金帳であった。二冊もあった。
彼は、ますます愕いて、二つの預金帳の頁《ページ》を開いて、しらべた。一冊は英蘭《イングランド》銀行のもので在高《ざいだか》は五万ポンド、もう一冊はフランスのパリ銀行のもので七百十七万フランばかりの在高が記入してあった。そして、どっちの帳面にも、この預金主の名として「ミスター・F」とのみ記《しる》されてあった。
これは、ミスター・Fの財産だ。相当の金だ。
彼は、ほっと安心していいのか、それとも他人の金を握ったことを気味わるく感じるべきかについて迷った。
だが、結局、ミスター・Fというのは、中国人|仏天青《フォー・テンチン》の略称《りゃくしょう》であろうと気がついたので、ようやく心は一時|落着《おちつ》いた。
「この分なら、ポケットから、もっといろいろなものが飛び出して来やしないかなあ」
そう思った彼は、また中国服の前を開
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