ことが、ようやくはっきりしたのであった。
すると、彼女のいう“仏天青”と、彼自身とは、一体どんな関係に置かれているのだろうか。
発音が同じで、文字が違う同発音|異人《いじん》という者もないではないが、仏天青という文字以外に、常識的に使われる文字は、そうないのであった。この上のことは、彼女に会って聞くより仕方がない。が、金蓮は、いつまでたってもかえって来なかった。彼はぼんやり、ホームの長いベンチのうえに腰を下ろして、考えつづけていた。しかし結局、金蓮のいう“仏天青”と彼自身とは容貌に於いて別個《べっこ》の人間だと思われ、また彼自身も、いきなりホームで抱きつかれた金蓮に対する印象が淡《あわ》く、どうしようかと考えているうちに、そこへロンドン急行の別の列車がホームへ入ってきたので、彼は金蓮を待つことをやめて、その列車に乗り込んだのだった。
列車は、間もなく動きだした。思いがけない情痴《じょうち》事件の駅を後にして……。
11
彼は、無切符であった。
切符は、アンが持っているのだ。
彼は、バーミンガム駅のホームで、喰べ物を買い込むために、アンから貰ったすこしばかり
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