と気がついてみると、列車は、動いていた。しかも最終の車両が、もうホームの真中あたりへ来て、相当のスピードを出していた。
「おい、列車、待て。ああ、アン!」
 だが、金蓮は、放さなかった。まるで、子供が母親の躯《からだ》に縋《すが》りついて放れないように、金蓮は、ますます強く、彼の躯をしめつけた。
「こらこら、また始めたな。困るね。さあ、放した放した」
 駅員が来て、放そうとしたが、金蓮は、頑張っている。
「この女、困っちまうな。中国の男の方を見れば、すぐこのとおりなんですよ」
 と駅員はいった。そのとき列車は、ホームを出ていってしまった。
「おい、放せというのに。金蓮さん、よく見てみなさい。君の主人だかどうだか、分るでしょう。ほら違う人だろう」
「あ――」
「どうだ、人違いだろう」
「ああ、違う。違うんだ、今、ここにいた仏天青は、どうした。あ、仏天青を、戻しておくれ。仏天青は、こんな顔じゃない。もっと顔が長くてりっぱないい男だ。こんな若僧《わかぞう》じゃない。早く、返しておくれ」
 女は、前とはうってかわって、彼をつき飛ばした。
「おい、金蓮。君の探している仏天青とは、どんな字を書くの
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