二人で喰べましょうよ」
 アンは喰べながらも、ひとりで、くどくどと同じことを喋った。仏は、サンドウィッチを喰べたり南京豆を噛んだりしているうちに、こんどは彼の方が眠くなった。そして、いつしか時間を忘れてしまった。
 仏天青《フォー・テンチン》が、目を覚《さ》ましたときには、列車はごとんと大きな音をたてて、立派な駅についたとこだった。ホームを見ると、バーミンガムと書いてあった。
「ああ、バーミンガムか。なにか、ありそうだな。アン、お金をお出し。おいしいものを見つけてくるから」
 仏は、アンの機嫌をとるつもりで、金を握ると、ホームへ下りていった。
 ホームは、ひどく雑閙《ざっとう》していた。何を買おうかなと思っていると、改札口の向こうで、新聞売子が、新聞を高くさし上げて、何か喚《わめ》いていた。彼は、これを買う気になってそこまでいった。
 新聞は、なによりの常識読本《じょうしきどくほん》だ。新聞を見ていると、忘れてしまった昔のことを、なにか思い出すよすがになるような気がする。
 彼が、新聞を買っているとき、不意にうしろから抱きついた者があった。
「ああ、やっと掴《つか》まえた」
 女の声だ
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