、全く思い出せないふしぎさ。彼は、自分自身が、一体何者であるかを知ろうとして、焦《あせ》った。
「おれは、中国人かな。どうも、おかしい」
そのとき、彼は、ふと自分の足許に転《ころ》がっている紙包に気がついた。それは、監嶽を出るとき、看守から渡されたものであった。
どうやら、これは、自分の所持品らしいが、一体中には、何が入っているのであろうか。その中にこそ、彼の素姓《すじょう》を語る貴重な資料があるのに違いない。彼は一大発見をしたように思い、声をあげて、大急ぎでその新聞紙包の紐《ひも》を解いてみた。
中から、出て来たものは、一体何であったろうか?
2
一着の、長い中国服だ!
中から出てきたものは、裾も手も長い、まっ黒な地色の中国服であった。そのほかになにもない。
「中国服か、やっぱり……」
彼は、首を左右にふりながら、服の裏をかえしてみた。すると、そこに白い糸で、仏天青《フォー・テンチン》と、漢字が縫つけてあった。
「仏天青? はてな、これが、おれの名前かな」
仏天青といえば、中国人の名前のようである。するとやっぱり、自分は、中国人なのであろうか。
看守
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