い頭部の負傷のことを、その始めっから、現状まで、くわしく心得ているのだ。妻を疑ってすまなかった。もう妻を疑うのは、この辺で、はっきりお仕舞《しまい》にしよう)
彼は、アンに対し、それを口に出して、謝《あやま》りたくて仕方がなかった。しかし、そんなことをすれば、アンの軽蔑《けいべつ》をうけるばかりで、何の益《えき》にもならないと思ったので、それはやめることにして、只《ただ》心の中で、アンに詫《わ》びた。
アンと憲兵との話によって、仏は、かねて知りたいと思っていた頭部の負傷の謎が解けたことを、たいへんうれしく思った。
これは、空爆《くうばく》で、爆弾の破片によってうけた傷であったのか。前額の左のところに、その気味のわるい前途《ぜんと》を持った傷口があったのか。そんなことを考えると、その傷口のことが、俄《にわか》に心配になった。そこで、そっと手をあげて、包帯《ほうたい》のうえから、傷口を抑《おさ》えようとした。
「およしなさい、あなた。触っちゃ、いけません。脳の傷は恐しいのです。刺戟《しげき》を与えることは、大禁物《だいきんもつ》ですわ」
そういって、アンは、仏の手をおさえて、彼の膝
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