がく》のすこし左へよったところを指し、
「見たところ、傷は殆どなおっているんですけれど、爆弾の小さい破片が、まだ脳の附近に残っているらしいのです。レントゲン――いえ、エックス線の硬いのをかけて、拡大写真を撮らないと、その小破片《しょうはへん》の在所《ありか》がわからないのですって。ですけれど、こうしていつも傍《そば》についているあたしの感じでは、その小破片は、もうすこしで、脳に傷をつけようとしているんだと思います」
「ああ、よくわかりました。奥さんも、御心配でしょう。御主人の御本復《ごほんぷく》を祈ります。じゃあ、ロンドンの中国大使館へは、私の方から取調べ票《ひょう》を送って置きますから」
「はい、どうもありがとうございました」
「じゃあ御大事に。蒋将軍にお会いになったら、どうぞよろしく」
憲兵は、最後に、仏天青《フォー・テンチン》に挨拶《あいさつ》すると、次のコンパートメントへ移っていった。
アンと憲兵との会話を、傍で聞いている間に、仏は、異常な興奮を覚えた。
(まだ、アンを疑っていたが、とんでもないことだった。アンは、たしかに、自分の妻にちがいないんだ。なぜって、自分さえ知らな
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