防空壕の入口に乗り捨てられてあった自動車の一台に駆けよると、運転台の扉《ドア》をあけて、とびこんだ。
「早く、さあ、あなた」
仏は、アンの心を解しかねたが、ぐずぐずしているわけにもいかず、つづいて、運転台にとびのった。
「あら、あなたと反対だったわね」
アンは、ハンドルのことをいっているらしかった。
「よし、こっちへ替《かわ》れ。おれが、運転する」
「そんな暇はないわ。あたしが動かします」
そういうと、アンは、ためらうことなく、エンジンを掛けた。そしてアクセルを踏んで、車を出した。
それからのちの、アンの働きぶりは、驚嘆《きょうたん》に値《あたい》するものがあった。
彼女は、その子供らしい顔に似合わず、非常に巧みに操縦をした。そして爆撃に震う舗道《ほどう》のうえを全速力でもって、リバプールの町の方へ飛ばしていった。
いつ、爆弾が、上から降ってくるかしれなかった。アンは、それでも、平気なものであった。彼女の目は、いつも前方を見つめていた。
一度は、丁度《ちょうど》さしかかった町辻《まちつじ》の郵便局へ、爆弾が落ちた。
「あ――」
と、アンは叫んだが、そのまま速力をゆるめな
前へ
次へ
全83ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング