アン、どこへいく。あ、今、外へいっちゃ、危い。入口でやられた人があるじゃないか」
「いいのよ。こうなれば、どこにいても同じことよ。さあ一緒に逃げてよ」
アンは、ぐいぐいと仏天青の手を引張った。
「危い。もうすこしの間、待て」
「いいえ、待てないわ。じゃ、あたしひとりでいきますわ」
アンは、入口の方へ上っていった。
「おい、アン、待て。おれも出る」
仏は、そういうと、中国服の裾《すそ》を摘《つま》んで、アンの後を追った。
5
防空壕を飛び出してみると、外は、今爆撃の真最中だった。
頭上には、ドイツ機が、縦横《じゅうおう》に飛んでいた。爆弾は、ひっきりなしに落ちて、黒い煙の柱をたてた。大地は、しきりに震《ふる》う。
「おーい、アン」
仏《フォー》は、精一杯の声をあげて、アンを呼んだ。
「あたし、ここよ」
うしろで声がした。見ると、アンは、そこに跼《かが》んで、腰の周《まわ》りについていた綱を、解いているところだった。
「呑気《のんき》だね、今、そんなことをして……」
「もう解《と》けたの。大丈夫ですわ。さあ、あなた、この車にしましょう」
「えっ」
アンは、
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