ている壁には、大きな鏡のついた戸棚がとりつけてある。天井には、グローブ式電灯が嵌《は》め込んである。ちと無風流な部屋だ。そして一体ここは何処だか、僕の記憶にないところだ。
「目が覚《さ》めたようですね」
いきなり話しかけられた。
「えっ」
僕はびっくりして、声のした戸口の方をふりかえった。
だが、そこには誰も立っていなかった。扉《ドア》はしまったままだし、鏡付の戸棚が冷く並んでいるばかりだった。
「そんなに愕《おどろ》くことはありません。私はリーマンですよ」
姿なき者はそういった。なるほどリーマン博士の声音《こわね》にちがいなかった。僕はぎくりとしたが、同時に腹が立った。
「リーマン博士。この仕打は、あまり感心できませんね。僕に一言のことわりもなく、知覚を奪ってこんな牢獄へ引張り込むなんて……」
僕はわざと牢獄という言葉を使った。例の箱型自動車十三号の中で僕は電灯のスイッチをひねると共に昏倒《こんとう》したことを、このときになって思い出したのだった。
「岸君。どうぞ何事も善意に解釈してください。お約束どおり、午前二時、Z九号飛行場を自動車が動き出したときに、貴方は今回の超冒険
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