どんな旅行か。それは多分このヨーロッパを出発し、敵軍の間を縫って遂に東洋へ達する旅行なのであろうと思う。潜水艦で渡るのか、それとも飛行機で飛ぶのか、それとも小さな汽船で行くのか。
 いや、そんなことは放って置いてもやがて自然に分ることだ。それよりも今夜は豪華なものだった。行き逢った同業者は必ず捉《とら》えて席を一緒にし、高く盃をあげてお互いの幸運を祈り合った。何十人だったか何百人だったか、よく覚えていないが、中でも日本人の同業者に対しては、ひとりひとりに無理やりに紙幣を押しつけてやった。みんな僕の顔を見て、気が変になったのじゃないかといっていたっけ、はははは。
「おう運転手君。車内が真暗《まっくら》じゃないか。電灯はつかないのかねえ」
 今になって気がついたことだが、わが十三号車は、車内は真暗のまま走っているのだ。運転台には灯がついているが、それも非常に暗い。
「ああ、すみません。旦那の倚《よ》っ懸《かか》っているところにスイッチがありまさあ。それをちょっと右へひねってくださいな」
 と、部屋の隅から声がした。高声器がつけてあるのだ。古い自動車には似合わぬ贅沢な仕掛だ。
「スイッチがあ
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