誰もいなかった。僕は長椅子のうえに身を投げ出した。破裂しそうな大きな動悸《どうき》、なんとかしてそれが早く鎮《しず》まってくれることを祈った。
 それから暫くすると、ワグナーが、部屋の中へ転《ころ》げこんできた。彼の顔は死人のように蒼ざめていた。それに続いてフランケが戻ってきた。彼もふうふうと肩を波打たせていた。展望室にいた連中は、均《ひと》しく誰も彼も大宇宙の悽愴なる光景に大きな衝動をうけたのであろう。
 だが、魚戸とミミとは、いつまでたっても部屋へ戻ってこなかった。
 僕は魚戸を呼び戻してやらねばならぬような気がしたが、立っていく元気はなかった。
 そのうちに、どういうわけか、天井の電灯が急に燭力を落とした。そして妙な息づかいを始めた。と同時に、部屋全体が振動を起した。それはだんだん烈しくなっていった。
 僕たちは皆立ち上って、部屋の真中に集った。
「なんだろう、これは……」
「なにか椿事《ちんじ》が起ったのだ。こんなことは今までに一度もなかった」
 だが、誰もその理由を説明できる者もなかったし、真相を糺《ただ》しに行こうとする元気のある者もなかった。
 ちょうどそのとき、入口の扉
前へ 次へ
全78ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング