発令室と呼ばれ、複雑な通信機がやっぱり環状にならんで据えつけられ、艇長リーマン博士のほか、数名の高級艇員が執務していた。
だが展望室との間は、完全な防音ができているので、発令室の話声は、少しもこっちへ聞えて来なかった。ただリーマン博士らが、僕の想像もしていなかったほどの熱心さをもって勤務を続けているのが、硝子天井を通して、はっきり見られた。僕は今まで考えちがいをしていたようだ。博士にすまない気がした。
欄干につかまって、展望窓から外を見たが、こっちの姿がうつっているだけで、何にも見えなかった。
しかしこれはまだ用意ができていなかったわけである。イレネは、ズドという名の見張員を僕たちに紹介してくれた。日焦《ひや》けした彫像《ちょうぞう》のように立派な体躯を持った若者だった。そのズドが、
「それでは窓を開きます」
といって、まず中央の円筒型の壁の一部を開き、その中に取付けてある配電盤に向って何かしているうちに、がらがらと音がして硝子天井から洩れていた光が消え、室内の灯火も急に暗くなり、その代りに展望窓の方から、青味を帯びた光がさっとさし込んできた。
「ああ、月だ。月世界《げっせかい
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