類をつくりたくないというので、出発以来、一般の展望を禁止しているのですわ。地球上の奇観《きかん》とちがって、宇宙の風景はあまりに悽愴《せいそう》で、見つけない者が見ると、一目見ただけで発狂する虞《おそ》れがあるのですわ。ですから、ここでよくお考えになって、さっきの申出を撤回せられてもあたしは構いませんわ」
「いや、展望をぜひ申入れます。発狂などするものですか。自分で責任をとります」
「あたくしも」
ミミもやっぱり同じ考えであることを明らかにした。これに刺戟《しげき》されたのか、記者倶楽部の部員六名中、ベラン氏の外はみんな艇外展望を希望した。ベラン氏は非常に不機嫌で、部屋の隅に頭を抱《かか》え込んで、誰が声をかけても返事一つしなかった。あわれにも、氏は神経衰弱症になったのであろう。
ところがベラン夫人ミミは、それをいたわるでもなく、平気な顔をしている。夫人も記者だそうで、仕事の上ではベラン氏とは別な一つの立場を持っているせいであるかもしれない。それにしても、僕には解せない奇妙な夫婦だ。
展望室
申入れが通じて、僕たちは本艇の頂部の一部に設けられたる展望室に出入すること
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