う重大事情をもっとはっきり僕らに理解させてもらいたいということだ。いちいち貴女を通してでなく、刻々僕らの感覚によって、その事情を知りたいのだ。展望のきくところへ僕たちを案内してほしい。僕は、事実をこの眼によっても見たいのだ」
「賛成ですわ」
 ミミが賛意を表《ひょう》した。
 イレネは唇をちょっと曲げて、自尊心を傷つけられたような顔をしたが、
「そのことも艇長に伝えて置きましょう。しかし貴方がたは、艇外が真暗で、なんにも見えないということを御存知なんでしょうね」
 僕は、はっと思ったが、こうなったら引込むわけにもいかないので、
「真暗でも、外が見たいのだ。僕の祖国にはいつも暗黒の夜空を仰いでは、詩作に耽《ふけ》っていた文学者があった。僕がその人でないまでも生き、こんなに遥々来た宇宙を、まだ一度も展望してないなんて、おかしなことだ」
「何がおかしいと仰有るの」
「こんな静かな密閉された中に生活していたのでは、宇宙を飛んでいるのか、それとも地下の一室で暮しているのか、はっきりしない。せめて展望台に立って、大きな月でも見たら、宇宙を飛んでいるのだと分るだろう」
「艇長は艇内に出来るだけ狂気の
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