、掃除夫のカールが床に油を引きすぎたから、それで滑ったと思っているんだ。だから夫人は掃除夫のカールのところへ押掛けて首を絞めるのだといってきかないのだ」
「それはカールの罪じゃあるまい」
「もちろんカールには関係なしさ。もし罪を論ずるとすると、このように急に重力が減ってきたのに対し、艇長が何等の安全処置も講じなかったことにあるだろう」
「安全処置なんて、考えられることなのか」
「考えられるとも。いや、現に本艇にはその設備があるんだ。艇長がその使用開始を命じなかったのがいけないといえばいけないのだ」
「その設備というのは、どんなものか」
「人工重力装置さ。つまり人工的に、本艇に重力が強く働いていると同じ効果を与える装置なのさ。これがないと、重力や引力のない空間を航行するとき、われわれ艇員は全く生活が出来なくなるのだ。たとえば、壜《びん》の中にスープを入れたとしても、いつの間にかスープが壜の中から流れ出して雲のように空間に浮いて、ふらふら漂《ただよ》うようなことになる。室内の物品も人間も、しっかり縛《しば》っておかないかぎり、上になり下になり入乱れてごっちゃになって、仕事もなにも出来やしな
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