すこし事態は明瞭度《めいりょうど》を加えるだろうと思う」
重力平衡圏《じゅうりょくへいこうけん》
われらの居住区は、完全な防音装置が施されており、また換気装置は理想的なもので、充分軟くされた人工空気が送り込まれ、空気イオンも至極程よき状態に保たれてあったために、天空を遥かに高く飛んでいながらも、僕たちの生活は一向地上の生活とかわらない楽なものであった。
だが、このごろになって、すこし妙なことが起り始めた。まず第一に身体が軽くなったことである。歩くにしても、肩に翼がついていてふわふわと飛べそうな感じが加わった。第二に、腰を下すのに、従来にないほどの力が要るようになったのは、ますます妙《みょう》な感じであった。別の言葉でいえば、雲の上に起伏《きふく》しているとでもいうか、身体に風船をつけているとでもいうか、とにかく妙なことになった。
それから第三に、卓子《テーブル》の上に置いてある灰皿だの百科辞典などが、ひとりでにするすると卓子の上を走り出すことだった。
その揚句《あげく》、下に落ちることもあったが、見ていると、金属で拵《こしら》えてある灰皿が、まるで手巾《ハンカチ》
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