か紙かが落ちでもするようにゆっくりと落ちていくのに気がついた。が、そのときは、頭が変になったのではないかと思ったので、別にさわぎはしなかった。
これを異変として、はっきりおどろきの声を出したのは、いつか倶楽部の壁にミミが吊り下げた水彩画の額が、どういうわけか、九十度横に曲ったまま、元の位置にかえりもせず、じっとしているのを見付けたときであった。
「おや。僕の目はどうしたかなあ、あの額は横っちょに懸《かか》っているが……」
僕は顔面から血の気が退いていくのが、自分でもはっきり分った。
「そうだとも。昨日から、額はあのとおり横向きになっている」
魚戸が、僕のうしろでいった。
「誰のいたずらか。人さわがせじゃないか」
僕は、魚戸がやったのかと思って、うしろを振返った。魚戸は、パイプをくわえて、うまそうに喫《す》っていたが、
「誰のいたずらでもない。地球の重力がどんどん小さくなっていくからだ。一週間ほど前から、本艇の速力はぐんぐんあがり、地球からの距離は急速に大きくなっていく。その距離の自乗に反比例して、重力は小さくなっていくのだ。その上に、月世界が近くなって、その方の引力が、地球の重
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