かった。
「われらの月世界着陸は、最も重大なる意義があるのさ。恐らく今度の航程のうちで、最も大きな収穫が期待されているのだと思う。場合によれば、僕は月世界の残留組を志願してもいいと思っている」
 さすがにフランケは、しっかりしたことをいう。死の星である月世界なんかつまらんものだと考えていた浅薄《せんぱく》なる僕の認識は、これによって訂正せられなければならなかった。
「月世界へ着陸するのは、あと何ヶ月かね」
「何ヶ月もかからないだろう。多分あと三週間もすればいいのじゃないか」
「三週間? そんなに早いのかね。じゃあ今後三週間は、われらは退屈でしようがないというわけだろうな」
「断じて否さ。出発以後、今日で十三日目だ。退屈した日が一日でもあったかね」
「君のいうことは正しい。僕は来る日来る日を楽しみにしていよう」
「よろしい。そこで今日は配給の酒が渡る日だそうだから、僕はこれから貰ってこよう」
 フランケは笑いながら席を立った。


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 あれ以来、ベラン氏はすっかり元気がなくなり、あまり口数をきかなくなった。倶楽部《クラブ》へ姿をあらわすことはあるが、彼は戸棚から小説本を
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