し、
「いやそれは本当です。本艇には現在二十五組の夫婦が乗っていますから、そういうものも当然用意してあります」
 と、大真面目でいった。僕はそれを聞くと、ちょっと揶揄《からか》ってみたくなり、
「ほほう。すると本艇にはお産日の近い御婦人も乗っているのですね」
「そうです。目下判明しているのは二人だけです。一人は縫工員《ほうこういん》のベルガア夫人で、これは妊娠九ヶ月、もう一人は宣伝長イレネ女史で同じく四ヶ月です」
「おやおや。それはどうも……」
 僕は後を振返って魚戸の顔を探した。魚戸の奴、周章《あわ》てくさって、ポケットから莨《たばこ》を出して口に啣《くわ》える。
 フランケは言葉を続けて、
「なお、本艇が予定の航程を終了するまでには、相当の出産があることでしょう。三四十人、いや四五十人はあるかもしれん」
「赤ん坊が四五十人もここで生まれるって……」
 僕は笑おうとして、ふと気がつき、笑うのを中止した。その代りフランケの前に進みより、
「フランケ君。君は本艇の全航程が何ヶ年ぐらいかかるか、それを知っているのかね」
「正式には知らんです。だが常識として、十五年はかかるでしょうな」
「十
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