おり、この美青年の給仕を呶鳴《どな》りつけたい衝動に駆られたのを、ようやくにしてぐっと怺《こら》え、誘導訊問風に呼びかけた。
「はい、さようでございます。ご馳走はございませんが、どうぞ召上ってください」
給仕は慇懃《いんぎん》に言葉をかえす。
僕は卓子の上を見た。
「おや、二人分の食事じゃないか。誰か、ここへ喰べに来るのか」
僕は意外な発見に愕《おどろ》いて、訊《たず》ねた。
「はあ、もうひとかた、ここへ来られまして食事をなさいます」
「誰だい、それは……」
「はい。そのかたは――ああ、もうお出でになりました」
戸口が開《あ》いて入って来た者がある。その人物の顔を見て、僕は思わず呀《あ》っと声をあげた。
「魚戸じゃないか。なあんだ、きさまだったか。ひどい奴《やつ》だ、僕を散々|手玉《てだま》にとりやがって……」
僕は魚戸をぐっと睨《にら》みつけてやった。ところが、魚戸は、意気悄沈《いきしょうちん》、今にも泣き出しそうな顔をしていた。四十男のべそをかいたところは、見ちゃいられない。
「おれは一杯はめられた」
魚戸は吐きだすように、これだけいって、僕の傍に、崩《くず》れるように
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