見えた。研究所のまわりは分厚い背の高い壁にとりかこまれ、その境内は欝蒼たる森林でおおわれていた。そしてところどころに、研究所の古風な赤煉瓦の建物が頭を出していたが、それとはまた別に一棟、すばらしく背の高い白壁づくりの塔が天空を摩してそびえていた。それは遠くから見ると、まるで白い編上靴を草の上においてあるように見えた。螺旋階段の明りとりらしい円窓がいくつも同じ形をして、上から下へとつづいていた。それはまるで八つ目鰻の腮のように見えたが、その窓枠はよく見ると臙脂色に塗ってあった。
博士は、螺旋階段をことことと、先にたってのぼっていった。僕は黙々としてその後につきしたがったが、階段を一つのぼるごとに、僕の心臓はまた一段とたかく動悸をうつのであった。
「さあ、しばらく入口で待っていてくれたまえ」
博士は、塔の頂上をしめている大実験室の扉の前に立ち停ると、僕の方をふりかえってそういった。そして自分は、入口の暗号錠をしきりにがちゃがちゃやっていたが、やがてそれをがちゃりと開いて、ひとり室内に姿を消した。
僕は入口にたたずみながら、異常な好奇心でもって室内の様子をうかがった。なにかしら、ひゅー
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