ってしまった。山ノ井の方はとくに心配をはじめた。
「やあ、あれは何だろう。大きな山が光ってみえるぜ、おい千ちゃん、あれを見な」
 川上が急に大きな声をだして、横の、のぞき窓に顔をおしつけて、わめきたてる。
 山ノ井は、はっとした。大きな山が光ってみえる。もしそれが大いん石であって、それに正面からぶつかられると、もうおしまいだ。かれは席からのびあがって、川上がのぞいているとなりに顔をおしつけて、外のようすをうかがった。
 うるしを流したようにまっ黒い大空。きらきらとダイヤモンドのように無数の星がきらめいている。ことに大銀河のうつくしさは、目もさめるようだ。その銀河が橋をかけているしたに、川上がさわぎたてる大きな光りの山があった。それは五色の光りのアルプスとでもいいたい。空中の博覧会の大イルミネーションだ。目をすえて見るとその五色の山脈はすこしずつ動いている。
「ああ、きれいだなあ」
 山ノ井は思わず嘆声《たんせい》をはなった。
「千ちゃん。きれいだなどと、見とれていていいのかい。あれは何だい。原子力のたつまきじゃあないのかい」
 原子力のたつまきなんて、そんなものがあるかどうか知らないが
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