しがみつきました。帆村は彫刻のようにかたくなって、怪塔王をにらみつけています。
「ちょっと待て」
と、帆村は怪塔王に声をかけました。
「なんだ、青二才、命がおしくなったか」
「いや、お前こそ気をつけろ。いま時計を見ると、丁度《ちょうど》この塔へむかって、わが海軍の巨砲が砲撃をはじめる時刻だ。お前こそ命があぶないのだぞ」
「えっ――それは本当か」
「本当だとも。そんな手筈《てはず》がついていなければ、僕たちのような弱い二人で、なぜこんなあぶない塔の中へはいりこむものか」
5
怪塔が軍艦淡路から砲撃されると聞かされ、怪塔王はおどろきました。
「ああ砲撃される。そいつは気がつかなかった」
そういったおどろきの言葉は、ほんとうに怪塔王の腹の底から出たものと見えました。
帆村と一彦とをそこにのこしたまま、怪塔王はあわてふためき、階上にかけあがってしまいました。
怪塔王はいま三階の自室にかえって、しきりに妙な機械の中をのぞいています。それは巧妙な地中望遠鏡でありました。地中にいてそれで地上がよく見えるという機械でありました。
これは潜水艦の潜望鏡みたいなもので、光の入口は
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