乗って、海岸めがけて漕《こ》ぎだしたのであります。
 まったく不思議な出来ごとがあったものです。塔のなくなった海岸の景色は、なんだかすっかり間がぬけたものになりました。
「上陸!」
 陸戦隊は一せいにボートから水際《みずぎわ》へとびおりました。
 そこでいよいよ塩田大尉を先頭に、小浜兵曹長がつきそい、陸戦隊は塔があったと思われる例の森をめがけて、勇ましく行進していきました。
 森はしずまりかえっています。白い砂も、青草も、みな黙ったきりです。迷子の怪塔はどこに立っているのでしょう。


   怪塔の一つの謎



     1

 怪塔の一階では、いま帆村探偵と一彦少年とが、しきりに小首をかしげています。
「帆村おじさん、なぜこの塔の出口が、土の壁でふさがれたんだろうね」
「ふーむ、おじさんにもよくわからないのだ。だがね一彦君、これは土の壁というよりも、むしろ土壌といった方が正しいのだよ」
「えっ、どじょう。どじょう――って、あの鬚《ひげ》のある、柳川鍋《やながわなべ》にするお魚のことだろう。なぜこの土がどじょうなの」
 帆村おじさんはくすくす笑いだしました。
「土壌って、魚のどじょう
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