彫刻の猿は、大きな口をあいて、上目《うわめ》で空の方でも眺めているような恰好《かっこう》をしています。
一彦は、その鍵がたいへん気に入ったと見えまして、いつまでも砂地でその鍵をもてあそんでいました。
ところがそこへ、ばたばたと駈けてきたものがあります。みると外ならぬ例の汐ふきのような顔をした老人でした。
老人は、あたりをきょろきょろ見まわしながら、一彦とミチ子の前まできました。
「お子供衆、このへんに猿の鍵がおちていやしなかったかな」
と、ふくみ声でたずねました。
「おじいさん、これですか」
と、一彦が砂の中に埋めてあった鍵を出してみせますと、
「おお、これじゃこれじゃ」
と、一彦の手からひったくるように鍵をとると、お礼もいわずに元きた道へ走り去りました。
「兄さん。あのおじいさん、とても変なひとね。ありがとうともいわなかったわ」
と、ミチ子が怒ったような声でいいました。
一彦はただ一言「うん」とこたえたまま、老人の後姿《うしろすがた》をじっと見つめていました。その顔には、ただならぬ真剣な色がうかんでいました。
怪事件
1
九十九里浜の沖に
前へ
次へ
全352ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング