寝台の上へ――
「あっ!」
 帆村は思わず、足を一歩うしろにひきました。なぜって、彼は寝台の上にかかっている薄い羽蒲団《はねぶとん》の間から怪塔王の目がじっとこっちをにらんでいるのを発見したからです。はじめて見る怪塔王の顔――ああ、なんという変な顔もあったものでしょう。
 帆村はピストルを怪塔王の目に狙《ねらい》をつけ、もし相手がうごけば、すぐさま引金をひく決心をしていました。
 ところが、ごうごうごうと、どこからか、たしかに寝息らしいものが聞えてきます。
(変だな)
 すると後からついてきた少年が、寝台をゆびさし、
「おじさん。怪塔王は目をあけたまま眠っているんだよ」
「ふーむ、そうかね」
 ほんの僅《わず》かの話声でありましたが、それが人間ぎらいの怪塔王の耳に入ると、彼はがばと寝台から跳ねおきました。
「ああーっ、よく眠った」
 と、両手をあげたところを、帆村が、
「動くな。動くとうつぞ。手をあげたままでいろ。下すとうつぞ」
 と叫べば、怪塔王ははじめて気がついて、はっと首をすくめました。そしてあの滑稽な顔を、そろそろと帆村の方に向け、
「お前は誰じゃ――おや、いつも塔の前でうろう
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