居間の扉をにらんで、呻《うな》るようにいいました。
「ど、どうしたんです、塩田大尉」
大尉はなにごとに気をいらだたせているのでしょうか。
「おお一彦君、ちょっとここへおいで」
大尉はこのとき、われにかえったように目をぱちぱちさせて、一彦をよびました。
「はい、な、なんですか」
「これをよんでごらん」
といって、大尉はさっきから何か書きこんでいた手帳を、一彦の方へさしだしました。
一彦がその手帳をうけとって、大尉の走書《はしりがき》をよんでみますと、次のようなことが書いてあります。
“ああ、ああ、うるさい。わしは研究中だ。誰がきても会わんぞ。今日はだめだめ。帰ってくれ”
それから、一行おいてその次に、また書きつけてある文句がありました。それは、
“ああ、ああ、うるさい。わしは研究中だ。誰がきても会わんぞ。今日はだめだめ。帰ってくれ”
という文句です。前の文句も後の文句も全く同じことが書いてあります。
「塩田大尉は変だなあ、同じことを二度も書いてありますよ。気分でも悪いのですか」
と一彦がききますと大尉は首をふり、
「体もなにも変りはないよ。変なのは、この扉のうちで返事をした
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