、この電話機を取上げました。
「もしもし、私は塩田大尉ですが、博士にお目にかかりたい急な用事があってまいりました」
 と、大尉は相手に聞えているかいないかにかまわず、送話器へ声をふきこみました。
「……」
 何の返事もありません。
「もしもし」
 塩田大尉はさらに声を大きくして言いました。
「博士は留守なのですかねえ」
 と一彦は大尉をみあげて言いました。
 大尉は首をふりました。
「――なにしろ急用ですから、失礼して中にはいりますよ」
 すると向こうから電話の声で返事がありました。たいへん低い声ですから、何のことかよくわかりません。
「何ですか、よくわかりませんよ。中へはいってから、改めてお話しねがいましょう」
 と、大尉はすましたもので、玄関の扉をひらきました。
「さあ一彦君一しょに来たまえ」
 大尉はずんずん上にあがっていきました。長いくらい廊下が、奥の方までつづいていましたが、そこをずんずんはいっていくのでありました。
(人の家へことわりなしに入って悪かないかなあ)
 などと一彦は心配しましたが、大尉は平気です。もっとも家の中には誰一人姿をあらわしませんから怒る人もないのです。
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