でしようか。いままでに、このことは殆《ほとん》どわかっていません。
 一彦とミチ子は、それからのちわずか五日間の短い日数のことでしたが、久万《ひさかた》ぶりに一しょに食事をしたり、歌をうたったり、お話をしたり、また夜は同じ室に枕をならべてやすんだりして、たいへん楽しいことでありました。そのためでもあり、またミチ子の手あつい看護のこともありまして、六日目になると一彦は殆ど普通に歩けるようになりました。ミチ子は一彦が病院の庭を歩く後姿をみまもりながら、うれし涙をこぼしました。
 一彦は、もうすっかり元気です。
「さあ、もう大丈夫だ。きょうは塩田大尉が来てくださると言ってたが、もう見えそうなものだね」
「塩田大尉が見えたら、御用があるの」
 と、ミチ子は心配そうにたずねました。
「うん、僕はね、塩田大尉と約束がしてあるんだよ」
「約束ってどんなこと」
「約束というのはね、僕を大利根博士のところへつれてってくれると言うことだよ。しかしこのことは、他人に言っちゃいけないよ。帆村おじさんが怒るからね」
 そう言っているところへ、当の塩田大尉が軍装もりりしく病室へはいって来ました。


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