かないのか」
 帆村の指さす方を兄妹がよく見ますと、なるほど丘のかげに一つの塔らしいものが見えます。
「おじさん、あれのこと?」
「そうだそうだ。丁度軍艦淡路が坐礁している丁度真正面になるだろう」
「おじさん、あの塔になにか怪しいことがあるの」
「さあ、それは今は何ともいえない。そうだ一彦君ここに双眼鏡があるから、これであの塔を見てごらん」
 帆村おじさんは、ポケットから、妙な形をした双眼鏡をとりだしました。それははじめ普通の双眼鏡に見えましたが、その先を起すと、蝸牛《かたつむり》が角をはやしたようになります。覗《のぞ》いて見ると、小形に似ずなかなか大きく、かつはっきりと見えます。
「どうだね、塔がよく見えるだろう。誰か窓からここを見ていないか、よく気をつけて見たまえ」
 あまりにも双眼鏡がよく見えるので、一彦はただぼんやりと塔をみつめていましたが、おじさんからいわれて塔の横腹に三段になってついている窓を一つ一つ丁寧《ていねい》に見ていきました。
 窓は手にとるようにはっきり見えました。するとどうでしょう。一番上の窓にはってある紫色のカーテンが、まん中からそーっと左右にひらかれるのが見
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