えました。
「おや、塔の中に誰かいますよ」
「なに、いるかい。双眼鏡をこちらへお貸し」
「ちょっと待って、おじさん」
と、一彦はなおもカーテンを見ていますと、そのうちにカーテンの間からあたりを憚《はばか》るように一つの顔があらわれました。その顔! その奇妙な顔!
「あっ、あの顔だ――」
と、一彦はびっくりして双眼鏡から目を放しました。それは誰の顔だったのでしょうか。
3
「あの顔って、どんな顔だ」
と、帆村は一彦の手から双眼鏡をとって、すぐ目にあてて見ました。しかし帆村の目には、一彦が見た塔上の怪人の顔は、もううつりませんでした。
「もう顔をひっこめたらしい。一彦君、どんな顔を見たんだ」
と、探偵帆村荘六になりきって、おじさんは一彦を離しません。
「おじさん、それが変な顔です。汐ふきのお面みたいな顔です」
するとミチ子も、それに声をあわせて、
「ああ、あの変なおじいさんのことなの。そうだったわね。昨日ここを通りかかったところを兄さんと一しょに見て笑ったのよ。だって、とても変な顔なんですもの、ほほほほ」
と、ミチ子はあの口のとびだした滑稽な顔を思いだして、おかし
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