このロケットは、磁力砲の役に立たなくなったことをはやくも察して、いまは逃げる一方です。ロケットの尾部から、黒いガスを出して煙幕をはり、逃げること、その逃げること。

     3

 いま、どっちも、鬼ごっこをしています。
 磁力砲も機関銃もうたず、もっぱらロケットは逃げることに一生けんめいですし、秘密艦隊の方では、それに追いつくことで一生けんめいです。
 そうこうするうちに、このおそろしい鬼ごっこはだんだんと白骨島に近づいてきました。塩田大尉はそれを小浜兵曹長のところへ、さかんに知らせてきます。それを聞いていた小浜兵曹長は、こちらもなんとかしてこの怪塔ロケットをとばせて、むこうから逃げてくる敵の隊長ロケットをむかえうちたいとおもいました。
 兵曹長は、黒人のところへやってきて、
「まだこの怪塔ロケットは、うごかないか」
 と、聞きました。
「いや、なかなかうごきません。こんなに壊れているのですから、考えてもおわかりでしょうが、直るまでにはなかなかたいへんです」
 黒人たちは、そういいました。それで早く直しにかかるのかとおもっていますと、そうでもありません。いやいやながら壊れたところを直しているといった様子が、手にとるように見えます。
 これをみて兵曹長は、心中むっといたしました。この調子では、怪塔ロケットの直しができあがるのはいつのことやらわかりません。そこで考えた兵曹長は、黒人たちにむかい、
「お前たち、壊れたところを早く直した者には自由をあたえる。つまりお前たちの生まれた国へ、安全にかえしてやる」
「え?」と、黒人はおどろき顔です。「早く直した者は、奴隷《どれい》からゆるされるのですか。自由の身にして、かえしてくれるのですか。それはほんとうですか」
「そうだ、そのとおりだ」
 それを聞くと、黒人たちは、たちまち別の人間のようになり、たがいに、ばたばたこちんこちんと、機械の修理にかかりました。
 ロケットは、まもなく直るでしょう。

     4

 黒人たちが、われ勝《がち》にと、大さわぎをして怪塔ロケットのわるいところを直すことにかかっていたとき、怪塔の入口のところを、ぶらりとはいってきたのは、別人ならぬ大利根博士でありました。
「誰だろう?」
 黒人たちは、目をぱちくりです。
 大利根博士は、まったく知らぬ顔をして、階上の無電室へのぼっていこうとします。そのとき、小浜兵曹長はこれを見つけて、
「とまれ! あなたは誰ですか」
 と、殺人光線灯をむけました。
「やあ、君のことかね。いま、向こうの洞穴のなかで、帆村君から聞いてきたよ、僕|一身《いっしん》のため、まことにすまないことをした」
「あなたは誰です。どこかで見たことのある人だが」
「わしのことか。君にわからないというのは、たいへん残念だ。わしは大利根じゃ」
「えっ、大利根博士!」
 と小浜兵曹長は、おどろきの目をぐわーっと開き、
「そうだ、はっきり覚えています。軍艦はじめ方々でお目にかかった大利根博士だ。博士、われわれはあなたが怪塔王のために、殺されたこととおもっていました」
 そういいながらも、兵曹長はじっと博士の顔から眼をはなしません。
「そうおもうのも無理はない。なぜか怪塔王は、わしが死んだように見せたかったのだ。わしは、とつぜん研究室にとびこんできた怪塔王たちにつかまり、この島へつれてこられたのだ。そしてあの洞窟のなかにとじこめられ、ひどい目にあっていたよ。さっき帆村探偵にすくわれ、こんなうれしいことはない。しかしよく聞いてみると、君が飛行機でこの島へとんでこなければ、このような勝利は得られなかったとのことだ。いや、お手柄じゃ、お手柄じゃ」
 と、大利根博士はしきりに小浜兵曹長をほめます。博士にほめられて、小浜兵曹長は、わるい気がしませんが、あぶないあぶない、博士の眼がきょろきょろ。

     5

 怪塔ロケットの中です。
 小浜兵曹長は、秘密艦隊との連絡をおえて、ほっと一息というところ。そこへ思いがけなく大利根博士がたずねてきたので、よろこびが二重にふえました。兵曹長は、まさか大利根博士が、あのおそろしい怪塔王だということは知りませんから、大利根博士を心の中に信じきっています。あああぶないことです。なにかまちがいがおこらなければいいですが――
 大利根博士は、なにか小浜兵曹長のすきをみつけてやっつけようと、眼玉をぎょろつかせています。
 ちょうど、そのときでありました。
 窓の外にとつぜんはげしい物音が聞えだしました。
 ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ。しゅう、しゅう、しゅう。
 そうしてなにか、電《いなずま》のような白い光が、小浜兵曹長の眼をさっと射しました。
「ああ、なんだろう」
 兵曹長は、すぐ窓のところにかけよりました。彼の顔が、急にかたくなりました
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